黒谷の「金戒光明寺」。
果てしない宇宙の時間をかけて私たちを想ってくれた阿弥陀如来の光と、
幕末の白刃の下に夢を追った新選組の影が同居する、
とても深い歴史を持つお寺です。
今回は、私がちょうど昨年の今頃、
初夏の柔らかな光が満ちる季節にこの場所を訪れたときの記憶を、
何枚かのお気に入りの写真とともに紐解いてみたいと思います。
そこには、歴史の重厚さだけでなく、思わず心がフフッと解けるような、
瑞々しくも愛おしい京都の日常が広がっていました。

ゆるやかな坂道を上っていくと、
目の前に現れるのは堂々とした大きな山門です。
五月の清々しい青空に向かってそびえ立つ木造の建築を見上げながら、
その圧倒的なスケールに早くも心を奪われていたのですが、
門のすぐそばまで歩み寄ったとき、私は思わず「おや?」と足を止めました。
目の前に広がっていたのは、瑞々しい生命力にあふれた「青もみじ(新緑)」の景色
――のはずだったのですが、その中に、まるで秋が忘れ物をして置いていったかのような、
真っ赤に染まった紅葉(もみじ)の木が佇んでいたのです。

「こんなに暖かい、初夏の季節にも紅葉が見られるなんて……」
思わぬ自然のいたずらに、新鮮な驚きが胸にこみ上げます。
春から初夏にかけて赤く色づく『春紅葉(はるもみじ)』という種類なのでしょうか。
目に染みるような新緑の鮮やかな緑と、燃えるような洗練された赤。
その二つが織りなす不思議なコントラストが、朝の光に透き通って、
息をのむほどに綺麗でした。一歩目からこんな素敵な景色に出会えるなんて、
やっぱり京都の散歩はやめられません。
山門をくぐり、広い境内を本堂のほうへと歩み進めていきます。
お目当ての「アフロ大仏」様がいらっしゃる場所は、
本堂から少し離れた、緑豊かな墓所のエリア。
そこへ向かう途中に、静かな池のほとりを通りかかりました。

ふと足元を覗き込むと、そこには色とりどりの紫陽花(あじさい)の花が、
みずみずしく綺麗に咲き誇っていました。
先日の南禅寺では目が覚めるような「新緑」に包まれましたが、
ここ黒谷の池のほとりでは、少しずつ色づき始めた紫陽花たちが、
訪れる人の心をそっと和ませてくれる柔らかな色彩を放っています。
青もみじ、春紅葉、そして紫陽花。
初夏の京都が持つ色彩のパレットに包まれながら、
私はさらに境内の奥へと進んでいきました。
そして、案内看板に導かれるようにして、ついにその場所へとたどり着きました。
石段の途中に、穏やかな微笑みを浮かべてちょこんと座っていらっしゃる、
お目当ての「五劫思惟阿弥陀如来」――通称、アフロ大仏様です。

その由来を知ったいま、
あの溢れんばかりに膨らんだ御髪(みぐし)を見上げると、
そのコミカルさの裏にある「宇宙のような深い愛」に
じんわりと胸が熱くなります。
(やっとお会いできた……!)
この素晴らしいお姿をぜひ写真に収めたい!
と、胸を高鳴らせてカメラを構えたのですが、
ここで私の心の中に、少しの躊躇が生まれました。
というのも、大仏様がいらっしゃるのは、
たくさんのお墓が静かに並ぶ墓所のエリア。
大仏様の背景(バック)には、
どなたかの上品なお墓が綺麗に写り込んでしまう
ロケーションだったのです。
「う〜ん、ここでお写真を撮っても大丈夫かしら……?
不謹慎にならないかな💦」
静まり返った墓所の中で、
カメラを手に一人で勝手にドギマギしてしまう私。
お墓に眠る方々に「ちょっとだけ大仏様のお写真を撮らせてくださいね」
と心の中でそっと手を合わせながら、
それでもあまりの尊さと愛らしさに、
気がつけば夢中で何枚もシャッターを切ってしまっていました(笑)。
後から写真を見返すと、どの角度から見ても大仏様はやっぱり優しく、
すべてを許してくれるような微笑みを湛えておられました。

ひとしきり境内を散策したあと、
最後に本堂の中へと上がらせていただきました。
外の賑わいが嘘のように、お堂の中は、
音がすべて吸い込まれてしまったかのような
圧倒的な静寂に満ちていました。
心地よいひんやりとした空気が肌を包み込みます。
私は、古い木の床の上にそっと正座をし、
頭の中の雑念をすべて削ぎ落とすように、
静かに目を閉じました。
先日の南禅寺の三門や法堂の前での出来事、
そして日々忙しく動いている頭の中を一度リセットするような、
贅沢な「無」の時間。
ただ静かに流れる時間に身を委ねていると、
心がすーっと落ち着いていくのが分かります。
……けれど、あまりの心地よさに、かなり長い時間、
じっと目を閉じて微動だにせず正座していた私。
ふと我に返ったとき、思ってしまったのです。
(これ、はたから見たら、静かに参拝してるんじゃなくて、
正座したまま爆睡してる人だと思われたんじゃ……?💦)
もし誰かに見られていたら、ちょっと恥ずかしいなと思いつつも、
そんな風に自分を俯瞰してクスッと笑えてしまうのもまた、
一人さんぽの愛おしい一コマです。

壮大な歴史のドラマから、季節が織りなす色彩の美しさ、
そして私たちが営むクスッと笑える日常まで、
黒谷さんは本当に豊かな表情で私を迎えてくれました。
みなさんも初夏の京都を歩く際は、
ぜひ金戒光明寺の静かな本堂で、
心を無にする贅沢な時間を過ごしてみてくださいね。
ただし、気持ち良すぎて本当に寝てしまわないよう、どうぞご注意を(笑)。




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