楽しみにしていた黒い招き猫に会えなかったのが少し残念でしたが、たくさんの子どもたちの笑顔と、シャボン玉がキラキラと舞う「檀王法林寺(だんのうさん)」をあとにして。
心地よい余韻に包まれながら、私はそのすぐ近くにある「頂妙寺(ちょうみょうじ)」へと、引き寄せられるように足を伸ばしてみました。
するとそこには、つい数分前までいた三条の喧騒や、だんのうさんの賑やかなわちゃわちゃ感とは打って変わって、息をのむほど深い、静寂の世界が広がっていました。
今回は、お寺の歴史や解説はちょっとお休みして、あの広々とした境内のなかで私をじっと待ってくれていた、新緑の光と、信じられないほど愛おしい「優しい奇跡」の物語を綴ってみたいと思います。

一歩足を踏み入れた頂妙寺の境内は、驚くほど広々としていました。
けれど、不思議なことに、その大きな本堂の真ん前に、大きな観光バスがぽつんと1台だけ停まっていたのです。
(おや、何か特別な行事でもあったのかな……?)とあたりを見渡してみましたが、あたりには人っ子一人おらず、ただただ静まり返っています。
そんな、ちょっとしたミステリーのような静けさも、観光地化されていないこのお寺ならではの、不思議な魅力のように感じられました。
そのまま本堂の前へと進むと、そこには見上げるほど大きな、立派なイチョウの木がそびえ立っていました。

いまは初夏の光をたっぷりと浴びて、目の覚めるような瑞々しい青葉を茂らせていますが、これだけ大きな木なら、秋を迎えて黄金色に優しく染まった頃には、さぞかし息をのむほど綺麗で見応えがあるのだろうな……と、まだ見ぬ秋の景色を頭のなかにそっと思い描き、胸がときめきます。
本堂の前に立ち、優しく両手を合わせて丁寧にお参りを済ませたあとは、時計の針を外したかのように、のんびりとした時間を過ごしました。
さらさらと風に揺れるイチョウの葉の隙間から、きらきらとこぼれ落ちてくる光の粒に見とれたり、「これは何が書かれているんだろう?」と、境内にひっそりと佇む案内板をゆっくりと読んでみたり。

そうして、広い境内を心ゆくまで心地よく1周し終えようとした、まさにその時。
静寂のなかに、小さな、けれど確かな生命の気配がふわりと現れたのです。
視線の先に、しなやかに歩く1匹の猫の姿が見えました。
わぁ、黒猫や……!
思わず声が漏れました。
つい数分前までいた、だんのうさん。
会えなかった黒い招き猫のことを思い出していると、
(なんて素敵な偶然!だんのうさんの神様が、ここに遣わしてくれたのかな……)
そう思うと、嬉しくて愛おしくて、胸の奥がじわーっと熱くなりました。
その場にそっと立ち止まり、驚かせないように見つめていると、奇跡はそれだけで終わりませんでした。


草むらや建物の陰から、1匹、2匹、3匹、4匹……となんと、次から次へと可愛らしい猫ちゃんたちが姿を現すではないですか!気づけば、あたりは小さな猫ちゃんたちの大集合場所になっていました。
こちらから急に近づくと驚いて離れてしまうので、私は足をとめ、じーっとその場で彼らを見守ることにいたしました。
すると、私の何もしないよ、という気持ちが伝わったのでしょうか。猫ちゃんたちは警戒を解いて、私のすぐ目の前で、それぞれ思い思いに、とびきりリラックスしてくつろぎ始めてくれたのです。
1匹の猫ちゃんは、古い塀の上にちょこんと乗って、気持ちよさそうにお昼寝を始めます。
もう1匹の猫ちゃんは、その塀の上をバランスを取りながら楽しそうにウロウロ。なんなら、塀から別の塀へと軽やかに飛び移ってみせたりして、元気いっぱいに自分の身体能力を披露してくれています(笑)。


そして残りの2匹は、地面の柔らかな土の上でゴロゴロと背中をこすりつけたり、のんびりと自由にお散歩をしたり。
みんな、毛並みも動きもまったく違って、本当に個性的。
静かな境内のなかで、思い思いの幸せな時間を生きているその愛らしい姿に、私の心は完全に釘付けになってしまいました。カメラを構えるのも忘れて、ただただ目尻を下げて、彼らの愛おしい一挙手一投足を見つめ続けます。

黒い招き猫の「お人形」には会えなかったけれど、その寂しさを何倍もの温かさで埋めてくれるような、本物の猫ちゃんたちとの出逢い。
人が誰もいない静寂な頂妙寺の境内は、彼らにとって、誰にも邪魔されない、とても安心できる大切な秘密基地だったのですね。
そんな彼らの穏やかな日常のなかに、よそ者の私をそっと混ぜてくれたような気がして、なんだかとても特別なギフトをもらったような気持ちになりました。

人の姿はほとんど見かけなかった頂妙寺。
けれど帰る頃には、青イチョウの木漏れ日と、4匹の可愛い猫ちゃんたちの姿が、しっかりと心のノートに刻まれていました。
檀王法林寺では会えなかった黒い招き猫。
その代わりに頂妙寺では、本物の猫ちゃんたちが「ようこそ」と迎えてくれたのかもしれませんね。
みなさんも、三条の街を訪れた際は、ぜひほんの少しだけ足を伸ばして、頂妙寺の静寂を覗いてみてください。
運が良ければ、青イチョウの美しい木漏れ日の下で、個性豊かな可愛い住人たちが、あなたをのんびりとお出迎えしてくれるかもしれませんよ。




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